理事長雑感⑩ 椅子取りゲーム

昨年末、ある幼稚園の年長児クラスで行われていた椅子取りゲームを見学する機会がありました。自閉スペクトラム症(ASD)のある男児、Rくんは、なかなかゲームに参加しようとしません。先生の促しにより、何とか2回ほど参加したものの、「イヤだあ。もう知ってる」と言って、その後は参加を渋る様子を見せました。さらに5回目には椅子に座れず、「あーん。やりたくない」と言いながら、窓際のカーテンにくるまり、そこから出てこようとしませんでした。

Rくんは一番になることへのこだわりが強く、集団活動への参加や行動の切り替えが難しい面があります。担任の先生は、見通しを持たせながら集団生活に参加できるよう支援していますが、日々対応に苦慮している様子でした。この場面でのRくんの気持ちを想像してみると、「このゲームは負けるに決まっている。負けるのは嫌だ。だから参加したくない。嫌だと言ったのに参加させられ、結局負けてしまった。もう嫌だ」といった思いがあったのではないでしょうか。そう考えると、途中でゲームから離れる行動も、Rくんにとっては自然な反応であったと言えます。そのような状況で、「頑張ろうね」「負けても大丈夫だよ」と声をかけても、本人の気持ちに十分寄り添うことは難しいでしょう。

そもそも椅子取りゲームは、よく考えるとなかなか厳しい側面を持つ遊びです。大勢の中で最後まで残れるのは一人だけであり、他の子どもたちは次々と脱落していきます。社会において、競争の末に限られた立場に就く構造と重なる部分もあります。子どもたちは、さまざまな遊びや経験を通して、負けることや思い通りにならないことを学んでいくのかもしれません。また、結果は実力だけでなく、時の運に左右されることもあるということ、そして人生において競争に勝ち続けることだけが価値ではないということも、少しずつ身につけていきます。学業成績だけで人が評価されるのではなく、多様な場面でそれぞれの力を発揮していけばよいという価値観を育んでいくのです。

ASDのある子どもには、自分なりの「マイルール」を持つ場合が少なくありません。それは、自分の行動を正当化するためという側面もありますが、同時に、環境との折り合いをつけるための工夫であるとも考えられます。

障害のある子どもたちは、生活の中でつまずきを経験することが少なくありません。しかし、失敗や葛藤を経験しながら次の段階へ進んでいくことは、誰にとっても同じです。カーテンの中で自分自身と向き合い、葛藤しているRくんの姿を見て、私は心の中で「悔しいよね。でも、君はちゃんと頑張っている。この経験がきっと君を育ててくれる」と応援しました。

なお、この場面について先生方には、「逸脱した行動そのものを注意するのではなく、気持ちを落ち着かせて自分から戻ってきたときに、『よく戻ってきたね』『偉かったね』と肯定的に声をかけてください」とお伝えしました。望ましくない行動を注意するだけでは、行動の改善にはつながりにくいものです。望ましい行動を認め、褒めることで、子どもは少しずつ学んでいきます。

人生をどのように生きるのか、困難とどう折り合いをつけながら自分らしく歩んでいくのかという学びは、子どもに限らず、私たち大人にとっても一生続くものなのだと、改めて感じさせられる場面でした。

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