理事長雑感⑮ 親亡き後の本人を中心にした生活づくり(1)

知的障害のある人の「親亡き後問題」というと、多くの場合は住まいやお金のことの不安であり、グループホームや成年後見制度などが話題になります。確かに、それらは大切な課題です。しかし、本当に大切なのは、親が亡くなった後に誰が面倒を見るのかを決めることだけではありません。本人がどのような暮らしを望み、どのような毎日を送りたいのかを考え、その実現に向けて準備していくことではないでしょうか。

知的障害児者の親たちは、子どもが生まれてから今日まで、子どもの幸せを願い日々の生活を支えながら多くのことを決めてきました。本人のことを一番よく知っているのは親であり、少しでも幸せになってほしいと願う気持ちは誰しも同じです。その一方で、親も年を重ねます。いつまでも今と同じように支え続けることは難しくなります。

だからこそ、親が元気なうちから少しずつ準備を始めることが大切です。それは「親亡き後」の準備というよりも、「本人が安心して暮らし続けるための生活づくり」と言った方がよいかもしれません。

近年、障害福祉の分野では「本人中心支援」という考え方が重視されています。障害があっても、一人の市民として自分らしい暮らしを選び、地域の中で生活する権利があるという考え方です。そのため、支援者や家族が本人のためによかれと思って決めるだけではなく、本人の思いや希望に耳を傾け、その実現を支えていくことが求められています。

しかし現実には、本人の意思を十分に聴く機会が少なく、家族や支援者が中心となって将来を決めてしまうこともあります。また、「まだ先のことだから」と考え、準備を後回しにしてしまうことも少なくありません。その結果、親の病気や入院、あるいは突然の別れによって、本人も家族も大きな不安に直面することがあります。

こうした事態を防ぐためには、本人の希望する暮らしや将来の姿について、家族、相談支援専門員、事業所職員などが一緒に考え、共有していくことが大切です。そして、その思いを支援計画として形にし、状況に応じて見直しながら少しずつ実現していくことが求められます。

親亡き後への備えとは、財産や制度を準備することだけではありません。本人を理解してくれる人を増やし、地域の中に安心できる居場所や支え合える関係を育んでいくことも大切です。そして何より、本人が「自分らしく生きていける」と感じられる暮らしとはどのようなものかを考え、その実現に向けた道筋を支援計画として形にしていくことこそが、私たちが今からできる最も大切な準備ではないでしょうか。

(2026.6.10記)

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